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山の上で「くれ」は見えない [おもひで]

 毎日更新の為の更新。

 特に読むべき内容ではないです。


 異動先にそのひとは居た。
 出会った時はそのひとは確か結婚式を1カ月後に控えていたと思う。
 最初は堅い感じのねーちゃんだなと思う印象しかなくそれこそ恋愛対象になんてならなかった。
 その頃はスノーボードが流行っていて 私は色んな人に教えていた。
 当時、今で言う「アラサー」世代のグループがあって その中に彼女も居た。
 遊びを通じて2年程するとだんだんとお互いが惹かれ合うようになってきた。
 仕事中と違って素の彼女はとても剽軽で魅力的な女性だった。
 その頃には彼女の夫婦関係は上手くいかなくなってきたらしい。
 私は色んな女の子と二人で遊びに行く事も多かった(何もしないですよ)が、彼女とは他の誰とも感じない
 特別な時間が流れた。

 ある冬の日。
 二人でスノーボードに行った帰り道。
 「今夜は実家に帰るから連れて行って下さい」と彼女が言った。(彼女の実家と私の家は車で10分と近い)
 笑っているような泣いているようなどっちでもとれる声に聞こえた。
 一度、自宅に帰ってボードを置き、朝に旦那用に炊いていたおでんを準備して車に戻って来た。
 道中で突然「灰ヶ峰に行ってみない」と誘われた。
 車で登っている途中に缶コーヒーを買った。
 真冬の灰ケ峰の頂上には誰一人おらず、この空間を邪魔するものは何もいない。
 邪魔するものがあるとすれば自分たちの吐く濃密な白い息だけ。
 空気は限りなく澄んで、気温は低く刺すような痛みさえ感じた。
 眼下に広がる夜景は煌めく銀河のように綺麗だった。
 特に何も言うでもなく同じ景色をかなりの時間ずっと見ていた。
 思わず抱き寄せようかと思ったが、「モラル」という見えない分厚い壁に阻まれた。
 一時間程で下りる事になったが、車中で彼女は今の生活の苦しさを吐露し始めた。
 どう言っていいのか分からない。
 本音を言えば「無理なんてしなくても別れればいいじゃん」と言いたいが言えなかった。
 ダメなやつ。
 結局、話を聞きながら実家まで送って行った。
 別れ際に「苦しい時は何でも話して」というのが精一杯。
 その時の私に出来る事はたったそれだけしか思いつかなかった。
 手を振りながら泣きそうな顔で見送った彼女。
 その時の赤いテールライトに照らされた顔は今でも覚えている。

 そんな関係はいとも簡単に崩れた。
 上司との何気ない会話の中で「〇〇さん、妊娠したよ」と聞いた。
 !
 危うい関係が終わった瞬間。

 「そんなの聞いてないよ」
 心臓が止まるかと思った。
 脈拍は200を超え、変な汗が吹き出たが平静を装った。

 私がリーダーだった社内スノーボードクラブはメンバーが欠ける事により「クラブ解散」の旨をメールでメンバー
 全員に宣言した。
 メールを見た彼女はボロボロと涙を流していた。
 その時を境にお互いが話をしなくなった。
 彼女が産休に入る前の出勤最終日。
 私宛に一通の社内メールが来た。
 彼女から。
 開けてみると内容は意味不明のひらがなの羅列だった。
 それは暗号だった。
 ローマ字打ち文章をひらがな打ちしてあり、一見は何が書いてあるかわからない。
 内容を解読してみて目が眩んだ。
 メールは「大好きな〇〇さん。」で始まっていた。
 その時に至って初めて私についての感情を明確に知った。
 お互いが知っていて言えなかったその一言。
 内容は一度でも抱かれていれば・・・という事。
 あの灰ヶ峰での時間。
 あれが彼女の覚悟の時だったんだろう。
 踏み出せなかった後悔。
 自分を責めた。
 私も暗号で正直な気持ちを送った。

 彼女は今では二人の子供がいると聞いた。
 多分、これが彼女にとって正しい選択だったのだろう。
 もし、あの時に踏み出す勇気があれば・・・
 「もし、たら、れば」なんて何の意味も無い。
 自分が選んだんだから今の自分がここにいるだけ。
 
 でも、あの「手も繋がなかった純粋な恋愛」は今でも誇れると思う。
 人によっては背徳の上に育った 心をさらう恋愛は浮気より質が悪いと言われるかもしれないが・・・
 
 灰ヶ峰から見る呉の夜景の光の筋が「くれ」と読めると、そのカップルは結ばれるという噂がある。
 これが本当ならあの時の俺たちにはどこをどうしたって「くれ」とは見えなかっただろう。
 まぁ、あの時の俺たちはそんな事を考える余裕なんて微塵も無かった。

 灰ヶ峰の夜景が見えるHP 必見です。
 
 

 オレは何時までもバカヤロウでありつづけるのさ。



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